コーヒーの香りや味を楽しみながら、カフェインの摂取量をコントロールしたい。そうした需要を背景に、デカフェ市場の拡大が見込まれている。調査会社Grand View Researchは、世界市場を2025年の約32億ドルから2033年には約52億ドルへ、2026年以降は年平均6.7%で成長すると予測する。その市場の約4割を占めるのが欧州である。
EIT Foodの2021年調査では、欧州5カ国の18〜24歳の58%が、パンデミックによって健康的な食生活への意識が高まったと答えた。また、オランダの貿易支援機関CBIは、欧州市場でカフェイン摂取を抑える人たちが急増しているのを指摘している。ブランドや好みの味に加えて、飲む時間や自分の生活に合うかどうかも、コーヒーを選ぶ理由になってきた。
ウィーンのデカフェ専門焙煎所「D stands for」は、その需要をスペシャルティコーヒーの品質で受け止めようとする。創業者のミリアム・ブバフタが以前から疑問に思っていたのは、夜のレストランで食後にコーヒーを勧められるとき、なぜもっとデカフェを提案しないのか、ということだった。
その後、彼女自身が妊娠と授乳を経験し、自身もデカフェを飲む機会が増えていった。しかし、市販品の味に満足できなかった。そこで、デカフェ専門のロースタリーを設立する。
D stands forが目指すのは、デカフェの中でも、産地や豆による風味の違いを選べるようにすることだ。果実のような香りや味わいまで楽しめるコーヒーを揃える。カフェインを控えたいという事情に、味への好奇心が加わることで、商品の選ばれ方も変わってくる。
ミリアムの経歴は、マーケティングやイノベーション支援の分野にある。当初は友人の設備を使うつもりだったが、最終的には自分で焙煎機を購入した。業界の知人たちと、コーヒーの味を評価するカッピングを重ね、意見を聞きながら品質を詰めていった。異業種での経験が、デカフェだけに集中するスタートアップを始める助けになったと彼女は振り返る。
自ら焙煎する理由は、求める味に近づくまで、十分に試行錯誤するためである。ミリアムによれば、デカフェの豆は通常の豆よりも焙煎時の扱いが繊細だ。そのため、条件を細かく制御し、仕上がりを再現しやすいと考えた電気式の焙煎機を選んだ。最初は小型機で少量ずつ試す。大きな機械で大量の豆を使うより、実験にかかる費用も抑えられる。品質を探る作業と、小さく事業を始めるための判断が結びついている。
ブランドを特徴づける淡いピンクも、デカフェの印象に合う柔らかさを求め、さまざまなパステルカラーを試したという。ただし、その色から想像される顧客像と、実際の買い手は必ずしも一致しなかった。
自身の経験から女性客が多くなると思っていたところ、実際には男性客が多かった。IT分野で働く人や、コーヒーを深く追求する愛好家も目立つという。妊娠中のパートナーのために買う人もいる。一つのブランドの事例ではあるが、デカフェの需要を特定の性別や事情だけで捉えきれないことがわかる。
もっとも、市場の成長と、小さな焙煎所の経営には、それぞれ異なる課題がある。生豆の仕入れには先払いの資金が必要だ。販売量が読めない段階で、どれだけ買うかを決めなければならない。設備導入に助成を受けても、支払いから助成金の入金までには時間差がある。ミリアムも、新しい焙煎機を導入した際には、手元資金が乏しくなったと話す。創業は家族で決めたことであり、事業を育てる間、夫が家計の支出をより多く担ったという。
それでも注文が増え、以前の焙煎機では生産能力の限界に達したため、一度に3キロを扱う機械へと規模を広げた。本人によれば、年間の焙煎量は初年度の約2トンから約4トンへと増え、いよいよ6トンが見えてきた。
コーヒーには、誰かを誘い、食事のあとも話を続けるための役割がある。その時間を楽しむ人たちが、全員同じ量のカフェインを必要としているわけではない。好みに合うデカフェを選べれば、自分の生活に配慮しながら、同じテーブルにとどまれる。
歴史的カフェが林立するウィーンが育んできたコーヒーの社会性は、こうして進化しながら、続いていくのだろう。









